Jul 01, 2025
【7月におすすめの本】夏を彩る作品をピックアップ!暑い時期ならではの読書法も紹介

7月の声を聞くころ、じんわりと肌にまとわりつくような暑さが続きますね。そんな日は、エアコンのきいた部屋で、冷たい飲み物片手に本を開いてみるのもおすすめです。今回は、7月の季節感にぴったりな作品や、夏にこそ読みたくなる爽やかな物語、そしてちょっとユニークな読書の楽しみ方をご紹介。この夏のお気に入りが、きっと見つかるかもしれませんよ。
MOKUJI
7月におすすめの本
暑さに疲れた心をふんわり包んでくれるような、そんな本を7冊セレクトしました。それぞれの物語に流れる空気を感じながら、少しのあいだ別世界に浸ってみませんか?
「火山のふもとで」松家仁之

7月1日は「建築士の日」。建築という仕事には、その土地の風や歴史、暮らしと深く結びついた魅力があります。そんな建築をテーマに、人生の再出発と向き合う物語をご紹介。
主人公は、東京・北青山にある〈村井設計事務所〉に入ったばかりの新米建築士。毎年夏になると、事務所は軽井沢の別荘地「夏の家」へ拠点を移すという、ちょっと変わった習慣があります。
事務所を率いるのは、戦前にアメリカでフランク・ロイド・ライトに学んだ経験を持つ老建築家・村井俊輔。寡黙で妥協のない職人気質の先生が手がける建築は、時代の流行に左右されず、凛とした美しさをたたえています。
夏のあいだ、所員たちは「国立現代図書館」の設計コンペに向けて全力で図面と向き合います。その中で主人公は、先生の姪と出会い、静かに育まれていく特別な感情に気づきます。ひそやかで淡い恋心は、短い夏の間だけのもの。そして物語の終盤では、30年後の現在がそっと描かれ、あの夏の日々が遠くから静かに振り返られます。
自然の中に響く鉛筆を削る音、夏の家に差し込む朝の光、木々のざわめきや鳥のさえずり…。建築の仕事の丁寧な描写とともに、そこに流れる時間が美しく切り取られた一冊です。
「通天閣」西加奈子

7月3日は「通天閣の日」。1912年のこの日に大阪のシンボル・通天閣が完成したことを記念して制定されました。通天閣を中心とした大阪・新世界を舞台にしたこの一冊をピックアップ。雑多で人情味あふれる大阪の街の中で、それぞれに行き詰まりを感じながら生きる男女二人の姿を描いた、切なくも温かい物語です。
主人公の一人は、懐中電灯などの小物を組み立てる工場で働く中年男性。淡々とした日常を送り、かつて抱いていた野心や希望も遠い昔のものとなり、妥協と諦めのなかで生きています。もう一人の主人公は、「サーディン」というスナックで働く20代の女性。恋人の「マメ」が突然ニューヨークに留学してしまったことで、生活は一変。「別れたわけじゃない」と自分に言い聞かせながら、寂しさを抱えてスナックでの日々を送っています。
個性豊かで一筋縄ではいかない新世界の人々が織りなす人間模様は時に滑稽で、時に切なく、街に独特の活気を与えています。そんな中、寒い冬の夜に通天閣で起きた予期せぬ出来事が、停滞していた二人の人生に新たな展開をもたらします。この一夜を経て、彼らは自分と向き合い、新しい可能性を見出していきます。庶民的な街の温かさと人間の複雑さが織りなす、希望に満ちた現代小説です。
「蜂蜜と遠雷」恩田陸

7月6日は「ピアノの日」。1823年、シーボルトが初めて日本にピアノを持ち込んだことにちなみ制定された記念日です。今回は、ピアノコンクールを舞台にした、音楽と才能が交錯する壮大な物語をご紹介します。
舞台は、3年に一度開催される国際ピアノコンクール。そこに挑むのは、個性豊かな4人のピアニストたち。完璧な技術を持ちながら母の死をきっかけに舞台から遠ざかっていた栄伝亜夜。楽器店で働きながらも音楽への夢を諦めきれない高島明石。音楽一家に生まれたマサル・カルロス・レヴィ・アナトール。そして、亡き師の推薦状一通で参加することになった謎多き少年・風間塵。
とくに風間塵の存在は異色で、楽譜もCDも持たず、ただひたすら音楽と向き合う彼の演奏は、聴く人の心を揺さぶり、ときに困惑させます。
コンクールが進むにつれて、4人それぞれの音楽への想いや人生が交錯し、互いに影響を与え合っていきます。各出場者たちの視点から描かれる演奏シーンが圧巻で、まるで実際に音が聞こえてくるような臨場感に満ちています。音楽への純粋な愛と、それぞれが抱える葛藤や成長が丁寧に織り込まれた、音楽小説の傑作です。
「偽鰻」保坂祐希

「土用の丑の日」といえば、鰻。けれど近年は、天然鰻の価格高騰や資源問題もあり、気軽に楽しむのが難しくなっています。そんな今だからこそ読みたいのが、現代の“鰻事情”を背景に描かれたこの一冊。
物語は、巨大スーパー「ヴィアンモール」の鮮魚部門で働く新入社員・蔵本里奈と、1990年代の政界で暗躍した元総会屋・沢木隆一の過去が交錯するかたちで進行します。やがて、ウナギの流通に潜む不透明な構造と、国家をも巻き込む利権の闇が明らかに――。
現実のニュースでもたびたび話題に上る「シラスウナギの激減」と「ウナギの供給量の矛盾」。本作では、その背後にある”見えざる手”をフィクションを通してあぶり出していきます。読み進めるほどに、「そういうことだったのか」と膝を打ちたくなるはず。ページをめくる手が止まらない、鋭くもリアルな一冊です。 【管理栄養士監修】うなぎの食べ合わせで効果倍増!梅干しはNG?本当に相性のいい食材とは
「ダンス・ダンス・ダンス」村上春樹

7月20日は「ハンバーガーの日」。1971年のこの日に日本初のマクドナルドが銀座にオープンしたことを記念した日です。アメリカ文化が日本に浸透していった時代背景は、今回ご紹介する物語の舞台とも重なります。
物語の主人公は、離婚後一人暮らしをする30代の物書き。1983年3月、北海道での取材後、記憶に残る「いるかホテル」を訪ねますが、そこはかつての面影を失い、近代的な「ドルフィン・ホテル」へと姿を変えていたのでした。
そのホテルで主人公は、不思議な存在・羊男と“再会”。さらに、地元の映画館で偶然観た作品に、中学時代の同級生が出演しており、その中にかつて関係のあった女性・キキの姿を見つけて驚きます。やがてホテルの職員から、13歳の少女ユキを東京へ送り届けるという思いがけない依頼を受け、主人公の旅路は現実と幻想の境界を越えていきます。
現実と幻想が入り混じる独特の世界観の中で、主人公は人生という名の複雑な舞踏を踊り続ける。過去と現在が交錯し、不意に現れる新たな出会いが人生を静かに揺さぶる。記憶、孤独、偶然の連なりが紡ぐ、不思議で美しい現代小説です。
「国道食堂」小路幸也

7月30日は「プロレス記念日」。1953年、力道山がプロレスデビューを果たしたこの日を記念して制定されました。今回は、元プロレスラーが営む小さな食堂を舞台にした、心にしみる物語をご紹介します。
舞台は、小田原と甲府を結ぶ国道沿いの「国道食堂」。どこか懐かしさを感じさせるその店には、なんと店内に本格的なプロレスリングが。実は店主が元プロレスラーというユニークな経歴の持ち主なのです。
名物は、ジューシーな唐揚げ、特製餃子、そしてこだわりのカレー。どれも丁寧に作られた逸品ばかりで、地元の常連客のみならず、遠方から訪れる食通たちにも愛されています。この食堂には、さまざまな事情を抱えた人々が訪れます。人生に少し迷い、疲れた心を抱える彼らが、温かい料理と店主や客たちとのふれあいを通して、ほんの少し前を向けるようになる──そんなエピソードが丁寧に描かれた群像劇です。
それぞれが抱える悩みや喜びを分かち合いながら、国道という「通過点」でありながらも、人生の重要な「立ち寄り場所」となる食堂の魅力が丁寧に描かれています。どこか懐かしくて温かい、小さな奇跡が起こる場所。読後、ふと旅先の食堂に立ち寄ってみたくなる、そんな一冊です。
「カメレオンのかきごおりや」谷口智則

7月25日は「かき氷の日」。夏の暑さを和らげてくれる冷たいかき氷が恋しくなる季節ですね。
物語の主人公は、世界中を旅する移動式かき氷屋のカメレオン。リヤカー屋台の中には、世界各地から丁寧に集められたカラフルなシロップがずらり。お客さん一人ひとりの体調や気分に合わせた“特別なかき氷”を作ってくれるのです。たとえば、元気がないサルくんには「レモン・バナナ・はちみつ」の“たいようかきごおり”を。食べた瞬間、世界はまばゆい黄色に染まり、サルくんの顔色もぱっと明るくなって、元気を取り戻します。登場するかき氷はどれも美しく、おいしそうで、まるで魔法のよう。
かき氷を通じて動物たちに元気を届けるカメレオン。旅を続けるなかで、カメレオンはさまざまな風景の中で次々と異なる色彩に変身していきます。しかし、あまりにも多くの色に変化することで、次第にひとつの疑問が心の中に芽生えてきて…。
外見の変化を通して、自分とは何かを問い直すこの物語は、子どもだけでなく、大人の心にもやさしく問いかけてくれます。
7月におすすめの読書法
ほんの少し工夫を加えるだけで、いつもの読書がぐっと特別なものに変わります。暑さが続く7月だからこそ楽しめる、とっておきの読書法を3つご紹介します。
スイカを食べながら読書
夏の定番といえば、やっぱりスイカ。シャクッとした食感と、口いっぱいに広がる甘みが、火照った身体をやさしく癒してくれます。涼しい部屋や縁側でスイカを頬ばりながらの読書は、まさに夏ならではのご褒美時間。物語の世界に夢中になりながら、ひと口スイカでのどを潤す——そんな五感で味わう読書は、心に深く残るはずです。とくに、夏が舞台の小説や、さっぱりとした読後感のある作品と相性ぴったりですよ。
蚊取り線香の香りに包まれながら読書
くるくると渦を巻く煙と、どこか懐かしい香り。蚊取り線香は、夏の夕暮れにそっと寄り添ってくれる存在です。窓を開けて風を感じながら、ゆらゆらと立ち上る煙に包まれてページをめくると、まるで時間がゆっくり流れているようで、いつもより深く物語に入り込めるかもしれません。昔ながらの日本の風景が描かれた作品や、時代小説を読むと、より情緒が増しておすすめです。虫よけにもなるので、安心して読書に没頭できますね。
ピアノの音色を聴きながら読書
静かな部屋に、そっと流れるピアノの音。そんな音楽といっしょに楽しむ読書も、心を整えてくれる贅沢なひとときです。クラシックのやわらかい旋律や、ジャズピアノの軽やかなリズムは、読書に集中したいときにぴったり。音楽がテーマの作品はもちろん、どんなジャンルの本とも不思議とよく合います。お気に入りの作曲家やピアニストの音色を背景に、本の世界へ。夏の夜にそんな時間を過ごせば、まるで映画のワンシーンのようなロマンチックな読書体験になるかもしれません。
おわりに
7月におすすめの本と、夏ならではの読書スタイルをご紹介しました。夏の暑さのなかでも、本を通して味わえる豊かな時間は、心をゆっくり整えてくれます。ふと旅に出たくなったり、誰かのやさしさに気づいたり。読書は、そんな小さな気持ちの変化を運んできてくれるものです。この夏が、あなたにとって心に残る一冊との出会いになりますように。

ななこ
「伝わる」「感じる」文章をお届けするフリーランスライター。美容や健康に気を使いたいお年頃。美味しいものとNetflixが大好きなインドア派ママです。